役所を去るに当り
安田慶文
暦の上では立秋というのに酷い暑さは骨まで溶けそうなこの頃、炎天下に働く村民の皆様相変らず殺然と汗と戦つている事と思います。切に御奮斗をお祈り致します。
小生役所入りして十年立派な気風にとけこみ、職員諸氏の協力と村民各位の御指導を受けて過失なく公僕として務めて参りました。役所で教わつた尊い体験を生かし、皆様方の御厚情を身につけて此の度、新しい仕事を開拓する為に去る六月退職致しました。在任中一方ならぬお世話になり誠に有難う御座いました。
扨て、所内人事移動で「村だより編集長」の新しいポストについた伝君から「別れのあいさつ」でもと原稿伝頼を受けて十日余約束を果せぬままに電話で二度三度再促を受ける。利便の筈の電話も或る時はわざわいで、腹を立ててもリンは容赦しない。お蔭で一人苦笑しながら約束をはたす破目となる。電話は愚劣な人間性を脱皮する妙薬かも知れぬ。
ところで編集中の註問を脱線するかも知らないが、過去十年は、お役所仕事の型にはまつた、規定に縛られたあわただしい一年一年の連続だつた。然し血の気の動く若い職員諸君は仕事の夢、暮らしの夢があつて、アバンゲール・アプレゲール・戦中派と混純とした時代感覚のずれはともあれ村民福祉につながる村行政に対するフアイトは他町村に遜色がない事は自負してはばからない。古きを陶太し、新しいものを採り入れ、年々輻湊する事務を刷新し、能率を増進して村治を革新して村民サービスを寄与し、着々とその成果をあげている。社会情勢の刻々と動く中で。考える事のみでは過去のものとなつてしまう。従つて常に物事を総合的に判断して次々実践していかなかれば目標に到着できない。振興計画の樹立、事務改善委員会の設置は表にはあらわれないが、目に見えないところの行政水準の向上によつて、村民の福祉増進に大きく寄与している事を我々は知らなければならない。更に職員労働組合か結成され、単に労働条件や生活条件の維持向上のみでなく所内の空気を明るくし、労使協調の役割も積極的に果しているし、明るい楽しい職場づくりは直接、間接に村民サービスに結びつく事は否定出来ない。
最近の政治、経済の変動は分刻みに激しい戦争が終つて軍工事ブーム、本土でいわれた神武景気そしてスクラツプブーム等によつて経済は安定成長を遂げたかも知らない又近く軍工事の拡張、講和発行前の補償金の支払い、日米政府の援助増額による景気の波が予想いされる。一般的傾向とは云え、雫細農家の多い村で第一次産業に於ける職業人口と所得のアンバランスを画く、産業構造上の否みが是正されない限り景気の波は農民まで及ばないかも知らない。干魃、台風と天災の制約を受ける農民は、鍬を捨て軍労務に従事し肉体を売る賃金労働者に変るのではないか。産業構造のアンバランス、所得格差のひどい農業行政の難しさに苦心する。然し公益行政発展の為に日夜奔走している村長の情熱に謝すると共に益々村行政の為に御自愛あらん事を切にお祈り申上げます。