これだけは知っておきましょう 正しい応急手当
私達はいつなんどき、思いがけない事故や急病人に出会うか知れません、そんなとき適当な応急手当ができるかできないか、によって、けが人や急病人の命を助けることにもなれば逆に死にいたらしめることや、治療をながびかせ一生かたわになることもある。
そのようなことで、私たちはいつでも、けが人や急病人に対して「正しい応急手当」ができるようにならなければならないと思いますそのため「一〇〇万人の救急法」(小森栄一著)にもとづいて「新しい救急法」「正しい応急手当」を揚載していきたいと思います。まず最初は「水による事故防止運動」にちなんで人工呼吸について述べたいと思います。
人工呼吸について
人工呼吸とは、
溺者、電撃、ガス中毒、胸部圧迫、胸部の傷、薬品中毒、首つり、過度の寒さ暑さにさらされた時、過度のアルコールをとった時、子供が引きつけた時、頭部の損傷など、以上のような場合に呼吸が止まっている時に、人工的に空気を肺に送り、血液中に酸素を供給して中枢神経を剌戟して、再び呼吸を回復させるために行うものである。「必臓が止まった場合には、人口呼吸はほとんど効果がないといわれている。」だから呼吸の止まった人に対しては、心臓が止まらないうちに一秒も早く人工呼吸を行なわなければならない。「人工呼吸は、早く行なえば早いほど効果がある。」呼吸が止まってから七~八分以上も経てば、蘇生の見込みは絶望だと考えられているだから呼吸の止まった人に対しては、一秒でも早く人工呼吸を行なわなければならない。
※最も有効な人工呼吸法は何か
最も有効な人口呼吸法は呼気蘇生法と呼ばれる方法のもので、術者が自分の口を仮死者の口または鼻へ当てて、じかに息を吹き入れる方法のものと、手動人工呼吸法として、ニールセン法がある。
※呼気蘇生法
呼気蘇生法にもいろいろなやり方があるが、ここでは”口から口へ法”と”口から鼻へ法”とを説明する
(A)口から口へ法
a、仮死者の体位
1仰向けにねかせる。
2術者は仮死者の頭部の方へ位置をとる。
3片手を仮死者の背骨の下に図一のようにさし入れて、背骨を上の方にすこし上げる。
4他の片手を頭部またはひたいに当て、
5それで頭をぐうっと押して
6顎が十分上を向くようにする。
7鼻の穴が天を向くように顎を上の方に突き出させる。
b息の吹き込み方
1ひたいを押さえている手でひたいを押したまま、仮死者の鼻をつまむ。この時にあごが元に戻らないように注意すること。
2背中の方の手を抜いて仮死者のあごをつかんで下の方に引いて口を開ける
3そのまま術者は自分の口を仮死者の口に当てて息を吹き入れる。
(B)口から鼻へ法
“口から口へ法”と同じかっこうで、術者は仮死者の鼻から息を吹き入れる。この時はあごをつかんでいる方の手で仮死者の口をふさぐようにする。あるいは術者は自分の頬を仮死者の口に当ててそれをふさぐ。
(注) この方法が前者よりやり易いが、人によっては生来鼻の通りの悪い人がいる。もし吹き入れてよくはいらない時には、口から口へ法に切りかえていれること。
呼気蘇生法のやり方の要領
前記のように口からまたは鼻から自分の息を吹き込めばよいが、そのやり方の要領は次の通りである。
A息を吹き入れると仮死者の胸がふくれる。それを確認しながら息を吹き入れる。
B息を吹き入れると、すぐ抵抗を感じる。この抵抗を感じたら息を入れるのを止めて、口をはなす。そうすれば仮死者は自然に呼気を起こす。
C数回吹き入れると、仮死者の胃部がだんだんふくれてくる。これは仮死者の胃に息がはいるからである。ひどくふくれたら吹き入れるのを止めて仮死者の顔を横に向けて胃部を片手で押して胃に入った息を吐き出させる。そして吐き出したらまた前記の方法を繰り返して行なう。
注意
a術者よりも仮死者の体格が勝っていれば、息を吹き込んでも、抵抗を感じない。そんな時 には息が全部入ってしまう。息が全部入ったらそれ以上追っかけてまた入れる必要はな い。すぐに口をはなして呼気を起こさせる。呼気を起こしたらまたすぐに息を吹き込む。こ れをくり返す。
b子供や自分よりも体格の劣る人に吹き入れる時には、初めから強く吹き込まないで、徐々 に吹き入れるのを増していく。そして抵抗を感じたらすぐに止め、口をはなして呼気を起こ させる。これを繰り返して行う。
c”口から鼻へ法”でも口から口へ法”でもそれを行う時に、仮死者の肩の下に約十センチ位 の当物をすれば、仮死者のあごがよく上るので、容易に呼気蘇生法が行なえる回数は大 人は一分間に十回位で乳幼児は二十回位である。しかし実際にやる場合には、回数のこ とはあまり気にしないで息が充分入ってしまうか、抵抗を感じるところまで入れて、これをく り返せば充分である。
※水におぼれた人への人工呼吸
昔から水に溺れた人を助けるためには、まず水を吐かせてから人工呼吸を行なえといわれているが、水を吐かせることは、人工呼吸を行なうための絶対的必要条件ではない。溺れた人は多量の水を飲んだために死ぬのではなく、本人は呼吸ができないから、肺に空気が行かないために死ぬのである。窒息のために死ぬのだと考えられる。だから水を吐かそうとすることよりも、一秒も早く肺に空気を送ること、すなわち一秒も早く人工呼吸を行なわなければならない。溺者に対して呼気蘇生法を行う時には仮死者の頭が足よりも高くなるような体位におくことが大切である。海岸であったら汀の方に足を置いて、頭が足より高くなるようにする。溺者の場合には、胃に水が多量に入っているので、息を吹き込み口をはなして呼気を起こさせる時にその胃の中の水を吐き出すことがある。だから術者は口を離すときには、顔を横に向けて自分の顔にその吐き出す水が当らないように注意する。
※呼気蘇生法を行なっていけない場合
呼気蘇生法を行なっていけない場合が三つある。
A有毒ガス中毒で呼吸困難や呼吸停止を起こしている者には、呼気蘇生法を行なってはい けない。ただし一酸化炭素中毒程度ならば行なってもかまわない。この場合仮死者の呼 気を吸わないように術者は息を吹き入れたら顔を充分に横に向けてはなす
B毒物中毒の人にもこの方法を用いてはいけない。ただし睡眠剤程度の中毒者には用い てもよい。
C伝染性疾患の者にもこの方法は用いてはいけない。
※イラスト「図1」「図2」へ原本参照