よみたんの民話 No.1 モーイ親方と母親の御願好き 話者・伊波蒲戸(伊良皆)
モーイ親方が子供の頃の話なんだがね。モーイのお母さんは、「トートゥ、トートゥ」と手を合わせ、ウートートゥ(御願)するのが、大変好きでした。
ひまさえあれば毎日、神棚の前に座って手を合わせ「家族みんななんの病気もなく、健康な体にして下さい。トートゥ」。「私達のモーイを立派な偉い人にさせて下さい。トートゥ」。と、願い事ばかりをウートートゥしていたようです。
ある日のこと、いつものようにお母さんが、熱心に「トートゥ、トートゥ」しているところへ、モーイがやって来た。モーイは、「アヤーさい、アヤーさい。」と、後からお母さんを呼んだ。すると、ウートートゥするのに忙がしいお母さんは、振り向くどころかいっこうに返事をしない。モーイは何度も「アヤーさい、アヤーさい」と、呼んだ。すると、しまいには、お母さんは怒って「何だねお前は、私は忙がしいのに、御願している後から『アヤーさい、アヤーさい』と、大声を出して邪魔するとは何事だ。」と、言ったかと思うやいなや、モーイのお尻をパチッとたたいた。
「ねぇ怒るでしょう。私達のような直接血のつながった親子でも、何度も呼んで邪魔すると怒るでしょう。
それに、この神棚にいらっしゃるウヤファーフジは、何代も前から続いている遠い祖先で、直接の血はつながっていないことだし、『トートゥ、トートゥ』すると、もっと怒るはずだよ。聞いてばかりいてひまもなくなる。アヤーが、『どうして欲しい、こうして下さい』と、何度も何度も願い事ばかりをすると、『忙がしいのに!』と、ちょうどアヤーが私を怒ったように、私達のウヤファーフジもアヤーのことを怒っているはずだよ。きっと。」と、モーイはいつもの頓智で母親をやりこめた。それからというもの、お母さんも前ほど、「トートゥ、トートゥ。」して、願い事をしなくなったということです。
(『伊良皆の民話』読谷村民話資料集Ⅰ 読谷村立歴史民俗資料館編 一七五頁より再話)