読谷の民話 No.3 親の声は神の声 話者・宮城正二(伊良皆) 再話・ゆうがおの会
むかし、昔のこと。那覇にカマーという男の子が両親といっしょに、毎日しあわせに暮らしていた。
ある日、お父とお母がカマーをよんでこう言った。「カマーや、おまえももう十五になったことだし、あの海の向こうにある唐の国へ旅に出ていろんなことを学んでくるがいい。」「はい、ぼくは行ってきます。そして沖縄のために役立つ人になりたいと思います。」と、元気よく答えた。
そして、六月の頃、カマーは胸をはずませて唐の国へ旅立った。
幾日か過ぎて唐の港に着いた。さて、そこから目的の町まで行くには、山を越えなければならない。山道を歩いていると、とつぜん大雨が降ってきた。「これは大変だ。」と岩の下に雨宿りをしたようだ。
一方、沖縄では、お母が、「きょうはこんなにも心もとない、いやな予感がする。」と言って易者の家を訪ねた。
易者はお母に言った。
「あなたの息子さんは唐旅をしているのかね。」「はいそうです」「息子さんは大雨の降る中、岩の下に隠れているようだ。だからあなたは崎樋川(霊所)に行って、『カマーやーい、カマーやーい』と三声呼びなさい。」と母親に教えた。
さっそくお母はそこに行って三声呼んだ。
その頃、カマーは岩隠にじっと身をひそめていたがだんだん不安になってきた。そのとき、かすかに「カマーやーい、カマーやーい」となつかしいお母の声が聞こえてくるではないか。
「どうしたんだ、これはたしかに私のお母の声にまちがいない、お母!」と呼んで雨の中にとび出した。
それと同時に岩はゴゴーッと大きな音とともにくずれ落ちてきた。カマーは危うく命を落とすところであったが、お母の声によって助かったのである。
しばらくして、雨も止み、カマーは町へ町へと歩き出した。
三年の月日が過ぎるとカマーはりっぱな若者になって沖縄へ帰り、世のため、人のために尽くしたということである。