ソウル・オリンピックのあの瞬間、いまでも夢のような気がするんです。
”記録はいつでも出せるが、五輪は四年に一度しかない。とにかく勝つことだ!”と、それだけに目標をしぼったことがようやく結実して、嬉しいというより、とうとうやったのだという充実感で体が震えました。
二度の挫折からの再起
ぼくが水泳を始めたのは、小学二年のときでした。それまではまったくのかなづちだったぼくが、近所のスイミングスクールに通い始めたのですが、思うように泳げなくてまるで面白くありませんでした。それでも一年半ほどで、どうにか人並み以上に泳げるようになり得意満面でした。
が、中学へ入って間もなく、最初の挫折を経験しました。鈴木コーチと出会い、本格的に競泳に取り組むようになったのですが、さっぱり記録が伸びず、日ごとに自信を失っていったのです。
いまは身長一八〇センチですが、そのころのぼくは、名前とは裏腹に背が低く、友達から”チビ”と言われ、そんなコンプレックスもあって、すっかりくさってしまったのです。
二度めの挫折は一昨年、極度の疲労からくる腰痛で、二か月間、寝たきりの状態になったときです。百分の一秒を争っていた人間がまったく泳げなくなってしまったわけですから、それはたいへんな衝撃でした。ソウル・オリンピックで優勝!という目標がボーッとかすんで、再起不能な自分が頭をよぎりました。
「これっくらいでくじけるなら、水泳はやめちまえ」、鈴木コーチからそう言われ、一度決めたことは、何がなんでもやりぬこうと、心を奪い立たせたのです。
極限状態に追い込む性格
成人式を迎えられたみなさんに、ぼくが言えることがあるとすれば、どんなときもまず大きな目標を掲げたほうがいいということです。そしてその目標を達成するために、その過程で小さな目標をいくつかつくり、それをひとつずつ完遂していくことで、大きな目標に一歩ずつ近づいていく挑戦精神がいちばん大切だと思います。
そして、もうひとつ大事なことは、その目標を達成するために、ここだというときにワッと瞬発力を発揮させられるかどうかだと思います。ぼくは、ラッパを吹いて自分をギリギリの極限状態に追い込まないとうまくいかない性格なのですが、やはり、ここだというときのバネが若さであり、生きているエネルギーじゃないでしょうか。
子供のころは、二十歳というと、”へえ一、すごい大人だなあ”と思いましたが、いま二十歳を過ぎて感じるのは、まだまだ幼いなあという気持ちです。でも、成人となったからには自分のやることぐらいには責任をもち、常に目標に向って邁進あるのみです。
ご成人、おめでとうございます。 (談)