読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1992年5月発行 広報よみたん / 6頁

【見出し】よみたんの民話 読谷村民話集より再話 五月五日の由来

しょうぶ(さといも科)花の茎は高さ25~40㎝で地中に太い根茎がある。花のほは約5㎝で、小さな花がたくさんついている。

 旧歴五月五日には、あまがしを作って、菖蒲の葉といっしょにお供えしますが、それはどうしてでしょう。

 むかし、ある男の人がある女と結婚して仲むつまじく暮らしていたそうです。
 そこで、隣の青年二人が、おもしろ半分に、
「あそこの家に若夫婦がいるというが、からかってこようか」
と相談して、こっそり戸の節穴からのぞいてみました。
 二人はびっくり。美しい若妻とばかり思っていたのに、その思いは裏切られ、なんと、きばをむきだした鬼が、男の人といっしょにいるではありませんか。
 青年二人は、顔を青ざめ急いで逃げているところを、坊主によびとめられました。
「おい!おい!そんなにあわてて何があったというのだ」
 相手が坊主だと分かると、すこしは落ちついて、
「たいへんだ!たいへんだ!あそこの家に鬼がいるよ」
と言って、走り去りました。
 「ふむ、鬼だと!ちょっと見てこようか」と、坊主も若夫婦の家まで行ってのぞいてみました。まちがいなく家の中に鬼がいました。
 「これはこれはまたなんということだ。早く男を助けないと命が危ない」と、坊主は考えました。
 ところで、この男には、以前に親しくしていた二人の女友だちがいましたが、この鬼が二人を殺し、若い女に化けてその男と結婚していたのでした。
 一方、坊主は、「このままではいけない。まずその男にほんとうのことを伝えるべきだ」と、さっそく呼んで言いました。でも、妻がよっぽどかわいかったのか、信用しませんでした。その鬼もまただれかに夫を横取りされることを恐れて、外出することをいやがりました。
 それから、坊主はここの部落の青年たちを集めて、男を助ける相談をしました。部落の青年たちは男を連れ出すために常会をもつことにしました。
「きょうは常会がありますので、午後七時に青年の皆さんは集まって下さい」
と、鉦や太鼓を打って知らせました。
 常会の知らせの鉦を聞いた男は
「私も青年なので、常会へ行って来ようね」
と妻に言うと、
「行かないで、行かなくてもいいでしょう」
「それでも、常会へ出ないとつまはじきにされるし行ってくるよ」
と言って、出かけました。
 待ちかまえたように、坊主は男をつかまえると、
「あなたの妻は鬼だよ。人間ではなく鬼なんだよ、嘘と思うのなら自分の目で確めてごらん」
と言いました。
 もうしっこく言われるものだから、男はまず様子をみてみようと思いました。
 そして、ある日、畑へ行ったふりをして、天井にのぼって下の様子をうかがっていました。
 すると、薪を燃やし、大きな鍋でお粥のようなものを作っていました。長い黒髪がボサボサの髪に変わり、頭に大きな口ができました。髪をかきわけ、かきわけ柄杓でお粥をすくうと、頭の口から食べているのです。あぐらをかいてすわり、きばをだし、目はギョロギョロ、長くのびた手に柄杓を持って、頭の口からお粥を食べているありさまは、みんなの言うとおり、まぎれもなく鬼の姿でした。いつもの美しい妻の面影はみじんもありませんでした。
 「こりや、まったくそのとおりだ」
驚いた男は、その場から逃げようとしました。しかし、物音に気づいた鬼は、「絶対逃がさんぞ」といわんばかりに、どんどん追って行きました。
 男は力のある限り、野原をかけ、林の中をつきぬけ、菖蒲がおい茂っている畑の中まで来ました。
 すると、鬼に殺された女友だち二人が菖蒲畑の中から現れて、手を広げ、男をかくまり、追いついてきた鬼をよせつけません。
 包丁をふりまわしている鬼に、またそのあとから追ってきた坊主や青年たちが、菖蒲の葉を手に手に持ってむかいました。
 鬼はもう、坊主に菖蒲の葉をむけられたので、
「ばれた以上、私はもう望みがない」
と断念し、自分の持っている包丁をたてて死んでしまいました。
 菖蒲のおかげで男の命は救われました。
 死んでも男を守ってくれた女友だち、二人、そして、坊主や青年たちへのお礼として、あまがしを作り、菖蒲といっしょにお供えをして、男の節句をするようになりました。
 菖蒲の葉で帯をしめ、「腹がんじゅ一しんそ一り」と、また鉢巻をして、「頭がんじゅーしんそ一り」という意味をこめて五月五日に祭りをしました。

  昌蒲ぬ葉ぬたみに
  命救いあぎてぃ
  いちゃし
  菖蒲ぬ葉に恩義さびが

  五月五日なりば
  菖蒲ぬ葉ぁ飾てぃ
  あまがしゆ作てぃ
  祭りさびら

しょうぶ〔白菖,菖蒲〕日本全土の川岸や池沼に見られる大形のサトイモ科の多年生草本で,葉はハナショウブやアヤメの類に似ている、根茎は泥中に長く横たわり,多節,多肉,白色ないし淡紅色で地上部とともに特別の臭気がある。葉は根茎の先端に群出し,長剣形,濃緑色で長さ50~80cm,幅6~15mm,先端がとがり,基部が跨(こ)状に重なり合うことはアヤメに似ている。
 肉穂は太く,長さ5cmくらい,密に多数の黄花を着生する。五月節供に使うのでよく知られている。【端午の節供とショウブ】ショウブは邪気を払ったり,疫病を除いたり、あるいはヘビや虫の毒を避けるのに効果があるとされ,古くから端午の節供に用いられた。端午とショウブの深いつながりは,端午の節供を一名菖蒲(あやめ)の節供と呼んでいることからもうかがえよう。こんにちでは端午の節供にわずかに,屋根の軒にヨモギをまじえてさす菖蒲葺(あやめぶき)と菖蒲(あやめ,しょうぶ)湯の習俗しか残っていない。

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