むかし、むかし、たいそうわがままで、親のいづことをすこしもきかないアタビー(雨蛙)がいたそうです。
おかあさんが、
「川に行って、水を汲んできておくれ」
というと、海に行って潮を汲んできました。
また、
「海に行って、潮を汲んできておくれ」
というと、水を汲んできたりしていつも反対のことをやって、おかあさんを困らせていました。
「ほんとうにしようのない親不孝な子だね。この子には、まともにいうよりは反対にいった方がいいね」と、おかあさんは考えました。
それで、山羊の草を刈りに行かせたかったら
「畑に行って芋を掘ってきなさい」
というと、草を刈りてきました。
芋を掘らせたいときは
「山羊の草を刈りておいで」
と、そういうふうにして働かせていました。
それから、おかあさんはまた考えました。
「わたしが死んだら何をするかわかったもんじゃないから、今のうちでいっておこう。わたしの墓を川辺につくりなさいといえば丘につくるだろう。この子には反対のことしかいえない」
とね。
ある日、おかあさんはアタビーを呼んでいいました。
「ねえ、アタビー、もしおかあさんが死んだら川辺に葬ってね」
と頼みました。
しばらくして、おかあさんは病気になってしまいました。アタビーは、おかあさんにいわれたことを思い出しました。死にそうになったおかあさんをみて、これまで自分がやってきたことをわびました。そして、死ぬときぐらいはおかあさんのいいつけを聞いてあげようと思いました。
おかあさんは「わたしが死んだら川辺に葬ってね」といっていたので、そのとおりに川辺に手厚く埋葬してあげました。
ひとりぽっちになったアタビーはさびしく家へ帰り、しょんぼりすわっていました。
すると、突然雷とともに大雨が降りました。
「アイエー、わたしのおかあさんの墓は、この雨で流されないかな一、ガーク、ガーク」
と泣きました。
このときから、アタビーは、雨が降ると、いつもおかあさんのことを心配してガーク、ガークと泣くそうです。
それから、おかあさんやおとうさんのいうことをきかない子には
「おまえはアマガクーだね」と、今でもいいます。