むかし、屋良村の東外れの森の中にムルチグムイとよばれる大きな湖がありました。
ムルチには大蛇が住んでいて、夜な夜な出てきては、田畑をはいづりまわり、稲や粟などの農作物を荒らし、またときには、そこを通る女、子どもまで襲っていました。
また、ムルチの向こう側に草が青々と広がる野原があり、たくさんの牛が飼われていました。そこへも大蛇はのびてきて、子牛を丸ごと飲みこんでいました。
そのうえ、この七ヶ月間というもの雨が全く降らず、住民はたいへん困っていました。飲む水もない、食べるものもない、しまいには餓死する人もでるほどの大ひでりでした。
百姓たちはもうがまんができなくなり、
「王様に天分がおありにならないのでこんな早魑になるのだ」
と、王をせめました。
王様はもう、どうしたらいいものか、いろいろ考えをめぐらしました。
そこへ、霊力高い女が、王様のところへやってきて、
「あのムルチには大蛇が住んでいます。その大蛇に、これっぼちも汚れてない女を生けにえにしない限り、雨は降らないでしょう。辰年の辰の日に生まれた娘をいけにえにしなさい」
と、告げました。
それから、王様は必死になってそのような娘がいないかとあちらこちらさがしました。
やっとのことでさがしだしたところは、大金持ちのひとり娘でありました。
そこの両親はとてもびっくりして、
「この娘がいなくなったら、わたしたちは生きていけない。どうか他にあたってほしい」
と、頭を下げて頼みました。
しかたなくそこをあきらめて、他をさがしてみると、こんどは、タマムイという貧乏人のところに同じ娘がいました。
娘の父親は盲、母親は継親というたいへん貧乏なところでありましたが、ふたりの親は娘をとてもかわいがっていました。
役人と金持ちの人がきて、
「あなた方が欲しいだけのお金をあげるので、いけにえにはあなた方の娘をやってくれませんか。どうかお願いします」
と言うと、貧乏人の親は、
「ぜったいにできません。いくらお金を積んだからといって、わたしたちの娘はいけにえにはやれません」
ときっぱり断りました。
話のやりとりを隠れて聞いていた貧乏人の娘は、
「わたしがムルチに行きます。これまでわたしを育ててきた恩義にたいし、こんどはわたしに恩返しをさせて下さい」
と、親に言いました。
「おまえを失ったらわたしたちは生きていてもしかたがないから、合点しません。お金なんて儲ければたくさんあるものだ。命より宝はない」
と、さとしましたが、娘は親の言うことをふり払って、生けにえへ行くことになりました。
娘はいよいよ白い着物を着て、ムルチへ入ることになりました。飛びこむと同時に、空は急に暗くなりものすごい雨音をたてて大雨が降りました。ムルチの水はまたたくまにいっぱいになってあふれ出し、娘は水に流されて助かりました。そしてのたうちまわっていた大蛇は死んでいました。
そこへ、王様がやってきて、
「この娘がいたからこそ恵みの雨も降ってくれた。お礼にヌブシの玉をあげよう」
と、ほうびを下さいました。
ヌブシの玉で父親の目をこすると、ふしぎなことに目があいて見えるようになり、それから親子三人、幸せにくらしたということです。