読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1993年7月発行 広報よみたん / 7頁

【見出し】嫁の輿に牛 よみたんの民話

 首里金城のある家に、年ごろの美しいひとり娘がいたそうです。
 おかあさんは、かわいい娘のためにすばらしい婿をみつけてあげたい一心で、毎日、観音堂へ拝みに行っていました。
 毎日、毎日行くものだからまわりの人にも知れわたり、サンダーという男の人もそのことを聞きつけ、「ふむ、ふむ。いいことを考えた」と、ニヤニヤしながら観音堂へ先廻りをしました。
 そして、母娘はいつものように観音堂の前でひざまづくと、
「わたしの娘にいい結婚をさせて下さい」
と、何度も何度も頭を下げて拝みました。
 そして帰ろうとしたときです。
「おい、おい、ちょっと待ちたまえ。おまえたちはいつもこのように拝みに来るが、きょうおまえたちが家へ帰るときに、最初に出会う人が婿になる人だ。もしその人を婿にしなければ天罰を受けるぞ」と、どこからともなく聞こえてきたのです。
 それはまるで神からのお告げのようなひびきのある声でした。
 母娘は
「あー ウートートゥ、きょうはいい人にめぐり会えるかもしれないね」
と言いながら家へ向かいました。
 すると、サンダーが前の方からスタスタ歩いてきます。
 母娘はサンダーを見て、「困ったことだ。どうしようか」と嘆き、迷っているうちに、どんどん近づいてきます。
 「仕方がない。もし嫁にさせなければ天罰を受けることになる」ということであきらめました。
 そして、なりゆきをサンダーに話して、結婚させることにしました。サンダーは大喜びです。
 いよいよ結婚式の日になりました。その日は、婿方から嫁を迎えにたくさんの人たちが籠を担いでやってきました。それでも母娘は最後まで行きたくないと迷っていましたが、ついに娘は籠に乗せられて行ってしまいました。
 一行は出発しましたが、籠を担いでいた若者たちは酒を飲んでいたので、途中ひと休みするつもりが、グーグー道端で寝てしまいました。
 それから、その側を王様が家来をひき連れて通りました。
 「なんだ!これは」
と、籠の中を見ると、美しい花嫁が中にいました。花嫁は王様に、
「こういう理由でお嫁に行きます」と悲しそうに言いました。
「そうか、それならば籠から出なさい」と言って、つれ出して行こうとすると、そこへちょうど子牛がやってきました。
「そうだ。この子牛を代わりに入れておけ」
と、籠の中へ押し込みました。
 しばらくたってから、籠を担いでいた若者たちは目を覚まし、
「あ一よく寝た。急げ、急げ」
と、籠を担ぐとサンダーの家へ走りました。
 サンダーの家では、
「花嫁が来るよう、花嫁が来るよう」
と、待ちかまえたようにみんな出てきて、籠をあけました。
 すると、なんと黒い子牛が出てきたのです。
「どういうことだ。花嫁をくれと言ったのに、牛をくれと言ったのではないぞ」
と、カンカンに怒りました。
 また、そこにいた娘の母親は、
「いくら苦労でも、どんなに哀れなことでも牛になり変わるといってもあろうか」
と悲しみました。
 そして、この子牛は母親がひきとり、朝から夜まで一緒に自分の娘だと信じて育てていました。 それからしばらくたったある日のこと、首里城で踊りの催し物が開かれました。人々はみんなそこへ行きました。
 母親は子牛にそれを見せれば、もしかして元の娘の姿に戻るかもしれないと考えていっしょに連れて行きました。大勢の見物人の中を歩いていると、子牛はあっちへ行ったりこっちへ行ったりして他の人たちから、
「ここへは牛を連れてくるな」
と、怒鳴られましたが、
「いいえ、この牛はわたしの娘です」
と言って、ずっと連れていました。
 母親の思いがとどいたのでしょうか。そこへ王様といっしょに娘も来ていました。
 娘が遠くからおかあさんを見つけて、
「あゝあの子牛を連れているのはわたしのおかあさんです。」
と指をさしました。王様の命令で家来が母親のところへ行き、
「あなたの娘はあそこにいますよ」
と言ってもなかなか納得しませんでした。
 娘が大きな声で「おかあさん」と呼ぶと、母親は娘の方を見て、走り寄り、ふたりは抱きあって喜びました。
 その後、娘は王様と結婚し、いつまでも幸せにくらしたということです。

利用者アンケート サイト継続のために、利用者のご意見を募集しています。