あるところにふたりの兄弟がいました。兄の名まえはマチューといい、とても横着者でした。弟の名まえはカミーで、これはまた貧乏ではあるけれどもやさしくて親孝行者でした。
しばらくして、おとうさんが病気になり、カミーを枕元へ呼んで言いました。
「おまえはお金もないのに、いつも親を思ってくれてありがとう。おとうが死んでも葬式に余分なお金は使わないで、ナンカ(法事)のときでも線香の一本、お酒の一合を供えてくれ」
と、遺言しました。
二日後におとうは亡くなったので、ナンカには遺言どおり線香一本と酒一合を持って行き、供えてあげました。
すると、兄さんは持ってきた物が少ないといってとても怒りました。
弟のカミーはもう、兄さんの家へ行くのを止めて、おとうのお墓に線香とお酒を供えようと決めました。
次のナンカの日、墓に行き、お酒一合を供え、線香をあげて帰ろうとすると、墓の袖口から真白い小犬が出てきたので、とてもびっくりしてブルブルふるえました。いくら追い払っても逃げもせず、墓の前に座りこんでワンワン吠えているだけです。
落ち着いてよくよく考えると、
「ここはよその墓ではなくておとうの墓だ。この犬はおとうなのかもしれない」という気持ちになりました。
小犬はカミーの後をずっとついてきました。家に着いてからもカミーのそばを離れないので、「よしよしおまえはずっとここにいていいよ」と頭をなでるとうれしそうにしっぽをふりました。
カミーは小犬をたいそうかわいがり、お米を一合炊いても、自分は食べずに小犬に食べさせました。
すると、ふしぎなことに、その小犬に食べさせた分は黄金がおかれていました。毎日、毎日そのようにして、カミーはたちまち金持ちになりました。
そうすると、耳の早い欲張りの兄さんは、「これはこれは貧乏者のカミーが、こんなに金持ちになるとは珍しいことだ」と、わけを聞きにきました。カミーは正直者なので、小犬と出会ったことなどありのままに話しました。
「一日に一合のごはんしかあげてないが、黄金をここにおいてくれるんだよ。それでわたしは金持ちになったんだよ」と。
兄さんは、「この犬をしばらく惜してくれ」と言って、むりやりひっぱって行きました。
家へ連れてくると、大事にするどころか、黄金欲しさに、「これは一合喰わしては、その一合の分しか返ってこない。二合でも一升でも喰わせれば、それだけ返ってくるはずだ」と考えました。悪い心を持った兄さんは、いやがる犬の口にどんどんごはんをおしこんだので、とうとう死んでしまいました。
「こんなにたくさんごはんもあげたのに役立たずの犬め」と怒って、畑までひきずって行き、そこへ放り投げました。
このことを知ったカミーは、たいへん悲しんで、すぐ畑へ行き、死んだ犬を抱えて家へ連れてきました。そして、庭に穴を堀り、手厚く葬り、そばに木を植えてあげました。その木は緑の枝をひろげ白い花が咲き、たくさんの実をつけました。毎年、その木はたわわに実をつけ、カミーもますます金持ちになりました。
木の名まえは「クガニ」といい、宝木ということで、お盆やお正月には仏壇に供えるということです。