むかし、あるところで、農夫が田んぼを耕していると、どこからともなく人の歌声が聞こえてきました。
東風ぬ吹きわ みからじん痛い
さんか珍さや 自由やならん
「なんだこれは。『東風が吹けば自分の頭も痛い 人里が恋しいが自由にならない』と歌っているがどこに人がいるのだろう。ふしぎなことだ」
と、田んぼをさがしまわしました。
すると、田んぼの端の方に、竹が生えていました。見上げると、人間の頭がい骨が竹に突きささって高くもちあげられていました。
頭がい骨はあちらにカラカラ、こちらにカラカラして、東風も揺られてさぞ痛かったんでしょうね。
「なるほど、この頭がい骨が歌を歌っていたんだな」
と、竹をたわめて頭がい骨をおろしました。
そして、近くに大きな岩があったので、その岩の下に大事に葬ってあげました。
「あなたは、こんなに突きあげられて、風に吹かれて、苦しかっただろう。痛かっただろう」
と、農夫が言ったので、
「ありがとう。この恩義は忘れません。他の人々の稲は暴風がくれば凶作になるだろうが、あなたはわたしを立派に葬ってくれたので農作にしてあげるので、その時は私が恩返しとしてやってあるんだなと思ってくれ」
と言いました。
農夫は、
「これからはごゆっくりなされて成仏して下さい」
と手を合わせました。
その後、夏になって暴風に襲われ、人々の稲は枯れてしまったが、その人の稲は暴風が終わってから芽が出て立派に実ったということです。
それからこの農夫は、毎年稲を植える時期には、頭がい骨を葬った墓へおまいりをしたそうです。