チブル蜂というのはスズメ蜂のことでね、蜂のなかでも大きくて、それに刺されるとすごく痛いそうだよ。その蜂がなぜ、チブル蜂と呼ばれるようになったのでしょう。
むかし、あるところにクガニジェークがいた。クガニジェークーとはね、金属でかんざしやいろいろな飾り物を作る職人さんなんだけどね。
それはそれはたいそうまじめな人だった。しかし、クガニジェークーの嫁は意地が悪かったので、夫のやることなすことにいつもブツブツ文句ばかりを言っていたそうな。
ある日、そこにひとりの金持ちのじいさんがやってきた。
「クガニジェークーよ、わしの床の間に飾る蜂の置き物を作ってくれないだろうか」
「そんな、このわたしにはもったいないことです。りっぱに作ってさし上げます」
仕事熱心なクガニジェークーは、頼まれたその日からさっそく蜂を作り始めました。クガニジェークーの家からは、日が暮れるまで、トンテンカーン、トンテンカーンと、かなづちの音が村中にひびいていた。
それから何日かが過ぎた。蜂はやがてでき上がろうとしていた。そして、最後の仕上げでふしぎなことがおこった。本物そっくりに出来上がった蜂に目玉を入れると、ブーンブーンと飛び上がりどこかへ行ってしまった。
「これはおあかしい。どうしたことだろう」
クガニジェークーは首をかしげながらまた作り始めた。しかし、何度やっても同じことであった。そのたびに意地悪な嫁は小言を言った。
「まあ、なんということよ、おまえさんのつくり方が悪いからそうなるのだ」
それでもまじめなクガニジェークーはくじけなかった。
「わざわざじいさんに頼まれたものだから、なにがなんでも完成させておわたししなければならない」
やっぱり目の玉を入れると蜂は飛んでいき、そんなことが十回ばかり続いた。さすがのクガニジェークーも根負けしてしまった。
「どれ、もう易者のところへでも行ってみるとするか」
そう考えたクガニジェークーはさっそく出かけて行った。
「わたしはある人に頼まれて、蜂を作っているのですが、目の玉を入れるたびごとに飛んで行ってしまいます。どうしたらいいものか、どうか、おしえて下さい」
「そうか、あなたの妻がよくないね。あなたはずっとその妻とくらしていると、一生涯苦労ばかりするよ。今すぐに夫婦の縁を切りなさい。そうしない限りあなたは成功しないでしょう。それから家に帰ったらね。チブルがあるでしょう。あれを割ってみるがいい」
家に帰ると、易者に言われたとおり、妻とも離縁した。そして、倉の中からチブルを取ってきて二つに割ってみると、驚いたことにブーン、ブーンと作った数だけの蜂が飛び出てきた。
そのときから、蜂はチブル蜂と名が付いたということである。
そして、クガニジェークーはますます繁盛して、楽しく一生を過ごしたんだよ。
これでおしまい。
注 チブル
・ひょうたん
実は若いうちは食用にし、熟したのちは中をくり抜いて容器とする。