読谷の民俗芸能 19 舞踊(4)谷 茶 前
軽快なテンポで踊られる「谷茶前」は私たちの身近で日常的に見られる踊りです。「谷茶前」は、恩納村字谷茶に伝わっていた次の「谷茶節」がもとになっています。
谷茶てる島や地ますいけらさの
しやんまさういさうい
地ます賜べめしやうれ御検者と地頭代
しやんまさういさうい
(訳)
谷茶という集落は土地が少ない
ハヤシ
土地を下さい検者様、地頭代様
ハヤシ
「谷茶節」は、「ウスデーク」の後に歌われる余興の歌だったといわれています。明治20年代に漁村の生活の様子を玉城盛重が振り付けたのが今の「谷茶前」なのです。その間に歌詞も変わったわけです。男性が櫂を、女性がザルを持って踊るのが一般的です。
ところで、字長浜には、男性が漁用のテービ(松明)を持って踊る形が伝承されています。音楽は谷茶前節、伊計離り節のほかに「マチナトゥアングヮ(牧港小唄)」が使用されることも特徴の一つです。歌劇「楽しき朝(カナガナートゥ)」でおなじみのメロディーです。「牧港橋の橋の下に下り、エビをすくって、愛しい夫にあげるのよ。そうしたらぽっちゃりと男振りがあがってね」という内容の歌です。仲睦まじい夫婦の様子が良く表現されている場面です。
牧港といえば、「谷茶前」に出てくる謝名、宇地泊の隣であり、内容的な面はもちろん、地理的にも組み入れ易かったかも知れません。
字長浜にいつ、どのような経緯で伝わったかわかりません。女性の衣装は、早乙女のような雰囲気で前掛けもしていたといいます。
戦後は全く途絶えていましたが、聞き取り調査をもとに創作も加えて婦人会の力で復活し、読谷まつりにも出演しました。テービを持つ「谷茶前」は、南城市安座真、名護市仲尾次などでも踊られています。
文・村立歴史民俗資料館 長浜 眞勇