読谷の民俗芸能40 舞踊(21) 女笠踊り
花笠を手に持って踊る舞踊というと、多くの方は恋をテーマにした「伊野波節」を挙げると思います。この「伊野波節」は出羽で伊野波節にのせ、花笠を手に持って踊ります。中踊りの恩納節、入羽の踊り長恩納節では、花笠を被ります。「伊野波節」は、『琉球戯曲集』(伊波普猷全集)をみると大清道光18年(一八三八年)の御冠船踊りの番組には「女笠踊り」と出ています。
一方、「本嘉手久節」という女踊りがあり、一名花見踊り、笠踊りとも呼ばれています。
音楽と歌詞は次のとおりです。
本嘉手久節
深山鶯の節や忘れらぬ
梅の匂忍でほけるしほらし や
出砂節
笠に散りとまる 春の花ごころ
袖に思とまれ 里が御肝
揚高祢久節
春に浮かれて 花のもと忍で
袖に匂移つち 戻るうれしや
この踊りは、鶯、梅、花と春を象徴する言葉で歌詞がつづられていることがおわかりになるはずです。出羽では杖を持って笠を被り、中踊りと入羽では花笠を手に持って踊ります。
野山に出て、花をめでて遊ぶ慣習は古くからあり、その背景には農耕儀礼があるようです。
この「本嘉手久節」と同じく、花見踊りの要素で踊られるのが、字瀬名波の「女笠踊り」です。
音楽と歌詞は次のとおりです。
金武節
押し連れて互に 花の元忍で
袖に匂移ち なが みぶしやぬ
謝敷節
初春に出ぢて 深 山うぐいすの
咲く梅につなぐ 声のしゅらさ
恩納節
花もながみたい
でちやよ立ち戻ら
明日も押し連れて 出ぢて 遊ば
三曲とも短い曲が使用され、花見の様子をさらりとまとめていると思います。花笠をもつ右腕を曲げ、花笠が肩口あたりに位置しているのが特徴です。また、「伊野波節」「本嘉手久節」は、後と前で花笠を被りますが、字瀬名波の「女笠踊り」は手に持ったままです。手数が少ないかわりに花笠の振りが大きいように感じます。字瀬名波では、この踊りも儀保カナミが伝えたと伝承されています。
「女笠踊り」は、字儀間にも伝承されており、戦後間もない頃までは、演じていたようです。月眺めを内容にした歌詞であったようですが、曲名はわかりません。つきましては、恋をテーマにした踊りなのか、花見踊りのたぐいなのかはっきりしません。
文・沖縄藝能史研究会会員 長浜 眞勇