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2008年11月発行 広報よみたん / 13頁

読谷の民俗芸能 44 歌劇(1) 楽しき朝(かながなーと)

読谷の民俗芸能 44 歌劇(1) 楽しき朝(かながなーと)

 歌劇は、主にせりふを曲にのせて歌い物語りを進行させるジャンルの芸能をさします。明治中期頃から商業演劇のなかで演じられていますが、当時の新聞記事などでは、歌劇と呼ばずに「踊り」と言っています。このことは、掛け歌から打ち組み舞踊へ移行し、それらを母胎として歌劇が発生したことによるのではないかと言われています。 読谷村には、泊阿嘉、奧山の牡丹、伊江島ハンドー小、中城情話など四十余種の歌劇が伝承されていました。
 今月は、まず字渡慶次、字長浜、字楚辺を中心に伝わる夫婦の中睦ましさを描いた「楽しき朝」をご紹介しましょう。
 舞台は、まさに一日のはじまりである明け方から幕が開きます。

 夫は一人で畑に急いでいる。そして息も絶え絶えに追いついた妻が詰め寄る。「あんまりよ。私を置いてけぼりにして一人で先走って。もう、お尻をぶってあげたいね」。夫は逆に「何でバーチー(妻の名)は、私より後になっていたんだ。先に行っていると思って追いつくために走っていたんだよ」。「頭がおかしいんじゃないの。二番鳥が鳴いたと言って、私をたたき起こしておきながら、いなくなってしまって!」と妻はやりかえす。
 気を取り直した夫婦は、まだ暗いのでここで夜があけるまで、しばらく語り合おうと座る。そして、夫婦は「天からの縁であってお互いに思い合っていれば幸せだ」と、話は次第に出会いの頃に移っていく。
 楽しく思い出話がすすんでいくうち、妻は、やおら子宝を授かったことを夫に伝える。喜びを爆発させる夫。はやる心で生まれてくる子は、男子か女子かと訪ねる始末。
 しめくくりは、二人で子どもをあやすうたで和やかな雰囲気のなか幕となる。
 「うみ童しかち 今どう思み知ゆる 昔我んむてる 人の情」(自分の子どもを育ててみて、いまひしひしと思う。私を子守してくれた親の情けを)

「楽しき朝」は、一曲構成で展開され、素朴な農村の若い夫婦が希望をもって生きていく姿を舞台化した歌劇です。時間は十分少々と短かめですが、深みのある物語りに仕上がっています。
 
文・沖縄藝能史研究会会員 長浜 眞勇

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