【見出し】よみたんの民話民話集より再話 キジムナーとアーカー
ず一っと大昔、読谷村宇座に、アーカーというたいそう貧乏な男が住んでおりました。 アーカーは、毎日、宇座の海に出て魚を取って暮らしていましたが、不漁つづきで生活もいっこうによくなりませんでした。 そうしているうちに、キジムナーと友だちになって、いっしょにイザリへ行くようになりました。 「お一い、アーカー、海へ行こう」 と、キジムナーが誘いに来ると、 「今、行くよう」 と、ふたりは仲よくティールを腰にぶらさげて海へ行きました。 アーカーとキジムナーはサバニに乗ると、凪の海へゆっくり工ークをこぎました。 突然、キジムナーが 「おい、アーカー、たとえどんなことがあっても屁を出すなよ」 「どうしてだ」 「おれがいちばん嫌いなものは屁なんだ。もしおまえがプーッと屁をこくと、おれはもうおまえと友だちなんかできない」 「分かった。ぜったいしないよ」 と、アーカーは、キジムナーの前ではいつも屁をこらえていました。 キジムナーは、アーカーにミーバイやイラブチャー、クスカーなどの魚をたくさん取ってあげました。 貧乏だったアーカーはキジムナーからもらった魚を売り歩き、たちまち大金持ちになりました。 「ふしぎなことだ。この世の中で、動物とも思えず、マジムンでもないが、こんなに魚を取るのが上手とはほんとうにふしぎだ」 アーカーは、キジムナーのことをたいへん珍しく思っていましたが、もう毎晩、誘いに来るものだからそろそろ疲れが出てきて、イヤになってきました。そして、これはどうにかしてキジムナーと縁を切ってしまわねばと考えるようになりました。 「あれだ!」 アーカーは、キジムナーが屁が嫌いだったことを思い出しました。 あくる日、いつもと同じように海へ行き、サバニが岸を離れてしばらくたった頃、静かな夜の海で、ブーウと大きな音がしました。 「なんだ!なんだ!おれは屁が嫌いだよう」 と、すぐさま陸へひき返し、サバニから降りると、スルスルスルーと逃げて行ってしまいました。 その後、キジムナーは、アーカーのところへ来なくなり、ガジュマルの木にひっそりとこもっていました。 「アーカーの奴め!おれがもうけさせてあげたのに、縁を切ろうとするなら、こんな奴は困らせてあげよう」 と、アーカーの豚や牛にキジムナーヤーチューをやるようになりました。 「これは大変なことだ。こうなると、キジムナーにはすまないが、ガジュマルを切り倒すしかない」と、アーカーはキジムナーの住んでいるガジュマルの木を大きな斧で倒してしまいました。 ますます怒ったキジムナーは、こんどは、アーカーの家を焼いてしまい、アーカーは、また、もとの貧乏になったということです。 (注) 「キジムナー」木の精。古木に宿るといわれ、人間と友だちになって魚取りを手伝ってあげる。または妖怪。 「イザリ」火を使う夜の漁。 「ティール」手のついたざる。 「サバニ」丸木舟。 「キジムナーヤーチャー」キジムナーが人間への仕返しに家畜におきゅうをすること。