家庭と少年非行
那覇地方裁判所所長 平田清裕
家庭のもつ温かさが、少年の行動に大きな影響を与えるといわれております。非行を犯して家庭裁判所に送られてきた少年についてその原因を調べてみますと家庭環境に問題のあるケースがかなり見られます。それとは逆に、非行をくりかえす少年のために、家庭の平和を乱され、親・兄弟が暗い毎日を送っている場合も少なくありません。このように、少年の問題と家庭の問題とは、相互に密接な関係にあります。そこで、今回は、家庭と少年非行とがどのように結びついているのかを見ながら、非行を防止するために、家庭の中で何が大切であるのかを考えていきたいと思います。
最近の少年非行には、動機の単純な遊び型の非行が目立ってきております。その原因を見ましても、遊び半分、虚栄及び出来心に原因するものが約六八パーセントを占めるなど、非行の大半が同機の比較的単純な遊び型のものであることが示されています。
かつて、少年が非行化するのは、親がいなかったり両親がそろっていても、仲が悪くて別居しているとか、あるいは、家が非常に貧しいなどのように、家庭に何らかの欠陥のある場合が指摘されてきました。ところが、最近では、これらの少年の保護者の状況について見ますと、実父母そろっている少年が約七七パーセントもいます。また、生活程度については、普通あるいはそれ以上の家庭にある少年が約八〇パーセントも占めています。このように非行少年は、必ずしも欠損家庭や貧困家庭からだけ生まれるのではなく、両親がそろい、しかも、経済的にあまり困らないごく普通の家庭からも生まれてきているといえましょう。
しかし、見た目には何でもない家庭の中にも大きな問題がひそんでいます。いろいろな研究の結果で見ても、これらの親の少年に対する態度には、放任、過保護、看護能力なしなど、少年に対する指導監督面に欠陥の見られる家庭の多いことを指摘することができます。
また、これまでも、親の態度として過保護ということがしきりに問題とされてきました。それは、詞から思い浮かべる甘やかし過ぎるということのほかに、少年に対して押し付けがましく干渉し過ぎる親の態度をも指しています。特に、最近は、親も愛情を物であらわそうとして、少年がほしがる物を、むやみやたらと買い与えてしまう傾向も見受けられます。その結果少年は我慢するという心が身に付かず、衝動的な行動に走り、万引きなどの非行に陥ることもあります。また、最近の社会の風潮を反映して、親は「勉強・勉強」と少年を追いつめたりして、その結果、少年は家庭の中で息を抜く場をなくしてしまいます。そうなりますと、少年の心は抑圧されて、とかく家出をしたり、あるいは、仲間とスリルを求めて、万引きや自動車窃盗などの非行に走ったりすることもあります。
このように、これらの少年の家庭では、親が少年に無関心であったり、また、家族がお互いの話しに耳を傾け、心を一つにして協力し合ったりすることがなく各自が勝手にバラバラの方向に動いていることが多いのです。問題は、家族とのつながり、特に、親と少年との人間的なつながりが欠けてしまっているところにあるということができましょう。
では、どうして家庭の中で、親と少年とが人間的なつながりを欠いてしまうのでしょうか。原因はいろいろあると思いますが、例えば、少年は身体の面だけから見ると大人ですが、精神面では、なお未熟な点がが多く、時に自由奔放であったり、熱中したりもしますが、反面、悲観したり、せつな的で、気分にむらが多かったりします。行動にも一貫性がなく、しかも自己中心的な主張をしがちです。一方、親の方も、社会の急速な変化に伴い、さまざまな価値観があらわれるため、自信をもって少年に接し得なくなっている例も少なくありません。特に父親は、今日の社会の状況を示す「父なき社会」という言葉からもうかがえるように権威を失い、少年に対するしつけに一貫性を欠き、少年の反発をかうことも少なくありません。このように親と少年とは、互いに不安定な状態にあるため、理解し合えず、心の交流が閉ざされた危険な関係に陥りがちなのです。目まぐるしく変わる生活環境に追われ、親の目が少年から離れがちな現在では、普通の家庭でも、このような問題の起こることが十分に考えられます。
しかし、何といっても、少年の心のふるさとは家庭です。できるだけ少年を家庭に落ち着かせ、親・兄弟との人間的な触れ合いを通して、共同生活のきまりを身に付けさせることが、最も大切なことです。それによって、少年は、社会の要求に従って行動できる適応力を身に付けることになるからです。そのためには、親と少年とが心から何でも話し合え、信頼し合えるような家庭のふんい気を作ることが強く望まれます。特に親としては少年の表面にあらわれた強さにまどわされず、少年の内面の弱さと不安定さを温かく見守りながら、その上で少年を励まし、少年に社会人としてのルールを守れるように自信を持って指導していかなければならないと思います。少年の健全な成長を助け、非行化を防止する上で家庭の果たす役割の大きさが改めて痛感されます。