むかし、あるところに三郎という人がいました。三郎はたいへんなまけ者で、仕事もせず、毎日家でブラブラあそんでばかりいました。
みかねた親が三郎をよんで言いました。
「三郎や、おまえも人並に働いたらどうだ。仕事でも見つけてきなさい」
と、旅費をあげました。
「じゃあ、そうでもするか」
と、しかたなく家を出ました。トボトボ歩いていると、猫を引きずっている人に会いました。
「どうして、その猫をこのように泣かして、引きずって歩くのかね」
「この猫は役に立たないから捨てに行くところだが」
と、言いました。
動物好きな三郎は、
「そうだったらその猫はわたしが買おう」
と、旅費としてもらったお金で猫を買って家へ帰りました。
親は猫を抱いて帰ってきた三郎を見て怒りましたが、再び旅費を持たせて行かせました。
三郎は、今度は犬をひきずっている人に会いました。
「どうして、その犬をいじめているのか」
と、聞くと、
「これはもう邪魔だから捨てに行くところだよ」
「それならわたしが買おう」
と言って、また無一文になり家へ帰りました。
もう親はカンカンに怒り
「これが最後だ」
と、お金をあげました。
今度もトボトボ歩いていると、大勢の子供たちが猿をいじめていました。
「おいおい、おまえたちはいったいどういう理由で猿をいじめているのか」
「どうして、これは私たちが捕まえたものだのに」
「どれ、それなら私が買おう」
と言って、お金をあげると、子供たちは喜んで帰りました。
そして、猿を山へ放してやると三郎は無一文になつ家へ帰りました。
親はもうカンカンに怒り
「もういい。おまえにお金をあげる必要はない。勝手にしろ」
と言いました。
それからは家で薪取りをして暮らしていました。
山で仕事をしていたある日のこと、
「三郎、三郎」
と声がしました。
「はて、だれが呼んでいるのかな」
と、あたりを見まわすと、猿が一匹いました。
「このまえは大変お世話になりました。助けてもらったお礼がしたいと、わたしのおじいさんが来るのを待っています。わたしといっしょに行きましょう。わたしの尾をつかまえて下さい」
言われたとおりに尾をつかんで目を閉じていると、いつのまにか、すばらしい家の中にいました。猿の家で、肉や魚、たくさんのごちそうでもてなされ、おみやげにヌブシの玉をもらいました。
その玉は自分の願いをかなえてくれるふしぎな玉でした。おかげで三郎はとても裕福になりました。
そうすると、隣の欲張り者が、
そのことを聞いて、
「その玉を貸してくれ」
と来たのでしかたなく貸しました。
欲張り者のすることといったら
「ありがとう」と言って偽物の玉を三郎に返したのです。
それからは三郎がいくら願い事をしてもちっともかなえられません。欲張り者の仕業に怒りました。
すると、猫がいち早くそれを聞いて、欲張り者の家へ奪い返しに行きました。猫は倉の下にうずくまっていると、ちょうどねずみがいたので捕えて、
「おまえの主人は心が悪いので、おまえはきょうは見逃すわけにはいかない」
と言いました。
すると、他のねずみたちが、
「このねずみは、きょうは花嫁としていく身なので、どうか許して下さい」
「そうなら許してあげてもいいが、おまえたちの主人が隠してあるあの玉を取り返すことができたらの話だ」
ねずみはチョロチョロ走っていき、ヨイショ、ヨイショと玉を持ってきました。
猫は玉を受け取ると急いで三郎の家へ向かいました。
一方、犬も話を聞いていたので自分が玉を持っていくつもりでいたのです。
そして、途中猫に会ったので、
「おまえには持つのは無理だからわたしが持って行こう」
と、強引に奪い取りました。
橋を渡っていると、川の水面に自分の姿が映っているのをみて、「ワン」と吠えたので、玉を川の中へ落としてしまいました。
そのあと、猫はしずしずと橋を渡りましたが、腹の大きい魚が浮いていたので、なんとなくその魚を捕えて家に帰ってきました。
待ちかねていた三郎が
「玉を取ってきたか」
と聞くと、
「魚の腹を開けて下さい」
と答えました。なるほど魚の腹の中からは玉が出てきて三郎は大喜び。
猫はたいそうほめられて、「いつも家の中にいて主人の側で暮らしなさい」と言われ、犬の方は一「おまえは何の役にもたたない。家の中へは入るな。外で生活しなさい」と言われたそうです。