読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1991年11月発行 広報よみたん / 8頁

【見出し】よみたんの民話 読谷村民話資料集より再話 クスクェーの由来 【写真:ティンゲー】

 むかーし、むかし、あるところにたいそう仲の良い夫婦が住んでいました夫は毎日せっせと畑へ行き、妻は家で布を織って、暮らしていました。
 そんな夫婦の間にひとつの悩みがありました。結婚してもう十四、五年は経つだろうに、子宝に恵まれていませ人でした。
 夫婦は朝に夕に「わたしたちに一日も早くかわいい赤ちゃんか授かりますように」と、手を今わせて祈っていました。
 そうしているうちに、夫婦の願いが神様にとどいたのでしょう。妻は身ごもり、星のきらめく、夏の夜「オギャー、オギャー」と元気な男の子か産声をあげました。、夫婦はもちろんのこと、隣近所そろって大喜び。
 父親は、
「待ちに侍った男の子だ。さあ、さあ皆さん、盛大にお祝いをしましょう」
と、呼ひかけました。
 そして、お祝いを盛りあげてもらおうと、以前に親しくおつきあいをしていたジュリを招いて、三味線をひき、歌い、踊って盛大に出産祝いを催すことになりました。
 ジュリには久しく会っていないが元気にしているかなと、気にしながら迎えに行きました。しかし残念なことに、そのジュリはちょっと前に亡くなっていたのです。
「せっかく迎えに行ったのに、全くなんということだ。かわいそうに」と、ガックリ肩をおとし、夫はしかたなく家路を急ぎました。
 陽はすでに落ちて、うっそうと茂っている木々の中、「あのジュリはもうこの世にいないんだね」と寂しく歩いていると、とても美しい女の人に出会いました。お互いに「ハイサイ」「ハイサイ」とあいさつを交わし、女は
「あなたはどこへ行かれるのですか」
と聞きました。
「わたしには、以前、とても親しくしていたジュリがいて、十数年ぶりに妻に男の子が生まれたので、そのジュリに祝いの舞いをお願いしようと出向いて行ったら死んでしまって会えませんでした。今、家に帰るところです」
「そうですが。それはお気のどくに、それでは、代わりにわたしが行ってさしあげましょう。歌、三味線も上手な方ですので、わたしが祝いの座を盛りあげましょう」
「それはそれはありがたいことだと、夫は自分の家へ、道で会った美しい女を案内しました。
 家では、すでに大勢のお客が集まり、酒や肴がふるまわれていました。そこへ美しい女が一緒になって、三味線をひき、歌い、踊り宴たけなわです。
 隣の部屋で休んでいる妻は、「まあにぎやかだこと。これほどまでに楽しそうにやっているとは、どんなすばらしい女の人が来ているのかな」と、戸の節穴からのぞいてみました。
 すると、腰をぬかさんばかりにびっくり仰天。美女が踊ってばかりいると思っていたのに、なんと、幽霊が髪をふり乱し、ティンゲーをふりまわしている姿ではありませんか。
 妻は、お客さんに気づかれないように夫を呼び、
「大変なことになってしまいました。あなたが連れて来た女は幽霊ですよ。ちょっとここから見てごらんなさい」
と、節穴からのぞくと、夫の目に写ったのもまぎれもなく幽霊でした。
「こんなめでたい時に幽霊が踊っていたとは」夫婦はげっそりして、どうしたらいいものか考えこんでしまいました。
 宴は夜遅くまで続き、やがて、コケコッコーと一番鶏がうたおうとしています。
「あゝもうこんな時間だ。きょうはお祝いの席へお招きいただき、実に楽しいひとときを過ごすことができました。わたしはこれで失礼します」
と言って、幽霊は帰って行きました。
 幽霊は鶏が鳴くのを恐がるそうだね。
 そこで、夫は「まず後を追ってみよう」とついていくと、墓のあるところへ行ったそうです。
 墓の前には、えん魔王が待ち受けていて、
「どうしたというのだ。こんなに長い時間、人間の世界をうろつくとは、鶏はもうすでに鳴いたではないか。きょうはここへ入れることはできない。明日の晩になったら入れてあげよう」
「わたしは今まで子どもの生まれた家に行って、そこで歌い、踊りお祝いを盛りあげてきました。ちゃんとした証拠だってあるのです」
「なんの証拠があるというのだ」
「子どもの魂を取ってきます。」
「そこの家では、夫婦で子どもを抱いているのに、どのようにして子どもの魂を取ってくるのだ」
「子どもがくしゃみをしたすきに取ってきます」
「それで、そこの人が”クスクェー”と言ったらどうするんだ」
「それは自分以外だれも知りません。『クスクェー』とはだれがも言いません。その証拠に子どもの魂をちゃんと取ってまいります」と、えん魔王と幽霊は話をしていました。
 二人の話を一部始終聞いた夫は急いで家へ帰り、妻に話しました。
 「この子がくしゃみをしたら、すぐ”クスクェー”と言いなさいよ」と、二人で子どもをしっかりと抱いて座っていました。
 そこへさっそく幽霊がやってきて、子どもの鼻をほじくったので「ハクション!」とくしゃみをしました。 夫婦は大きい声で「クスクェー(糞を喰え)」と言い返したので幽霊は子どもの魂を取ることはできず、二度と現れることもありませんでした。
 それから、今でもクシャミをすると「クスクェー」と言うようになったということです。
 
(注)
 ジュリ=遊女。三味線を弾き、歌を歌い、踊りをするので芸者も兼ねている。
 ティンゲー=”天蓋。葬具の一つで龍頭を象ったもので禽の前から持ち、魔除けだと信じられて          いる。

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