あるたいへん貧乏な家に、年を取った両親と一人息子のカナーがおりました。今にでも壊れんばかりのおんぼろの家があるだけで、野菜を作る一坪の畑さえもなかったので、カナーは金持ちの家で日雇いをして毎日夜遅くまで働き、親の面倒をみていました。
カナーは主人の家で三度の食事をとっていましたが、親は一日一回だけの食事しか食べてないので主人にお願いして、自分の夕飯を包んでもらって両親に食べさせていました。
ある大晦日の晩、その日は主人から特別にご馳走をもらって、家へ急いでいると
「どうした青年、仕事帰りか」
と、腰も曲がった、八十はとおに越しているだろうと思われるおじいさんが声をかけました。
おじいさんは何やら子どもを背負っている様子でとても重たそうにしていました。
「そうですよ。それにあなたはどこへいらっしゃるのですか」
「伊波にだよ」
「じゃあ、私も同じ方向ですのでその子は私が代わっておんぶしましょう」
「いいよ、いいよ」
「若い時の難儀は何でもありません。私の背中に変えて下さい」
と言って、カナーは子どもを背負いました。
すると、今まで元気だった子どもが、おぶさると同時に手足は冷たくだら~んとしていました。いつの間にかおじいさんの姿も消えていました。
カナーは怖くなりましたが、気を取り直し、預かった以上は夜道に捨てるわけにもいかず、家に帰れば両親がいるし、まず相談するしかないと家路を急ぎました。
家に着くと、いったん軒下に下ろしました。出迎えた両親に
「きょうはもうたいへんな目にあってしまいました」
「どういうことだ」
カナーは老人と会ったことなどを詳しく話しました。
「それならひとまず家の裏座に寝かすことにしよう」
と両親は言い、床板を外して棺箱
を造りました。その中に入れて、線香をあげ、夕飯も供えました。夜が明けたら葬ってあげるつもりでした。
翌朝になって、「きょうは葬式をしようね」と両親が棺箱の蓋を開けると、なんと、棺箱の中は眩しいくらいに光り輝いているではありませんか。死んだ子どもの姿は見えず、代わりに黄金がありました。
「これはいったいどうしたことだ。おい!黄金だ。おまえの誠が天に通じたのだ。あのおじいさんはきっと神様だったんだ」
それから、カナーの家はこの黄金のおかげで金持ちになり、大きな家を建て、畑を求めりっぱな農家になりました。そして、カナーは妻をめとりました。
妻は、最初のうちはよさそうな嫁に見えましたが、そのうち、自分の夫にだけはやさしくするのに、両親のことはかまわないどころか食事さえもあげませんでした。
カナーが仕事から帰る頃には、夕ご飯もちゃんと準備され、カナーは食べながら、
「お父さんやお母さんはもうすんだのかね」
と聞くと
「はい」
と、あげてもないのに嘘をついていました。それでもお父さんとお母さんは、嫁の悪口一つ言わず、自分たちさえ我慢すれば円満なんだと辛抱していました。
それからしばらくたって、カナーは仕事帰りの夕方、重そうな風呂敷包みを頭に載せたおばあさんに会いました。
「もしもし、その荷物を持ってあげましょう」
おばあさんは最初は「いいよ」
と言いましたが、
「私に持たせて下さい。どちらまで行かれるのですか」
「私は、伊波のどこそこの家に用があってそこへ行くところだけど」
「えゝ、その家は私の家ですが、また、何の用ですか」
「あなたの家なんですか。それはちょっと言いにくいことだけど」
「どういうことですか。何であれ私の家庭のことですからはっきりおっしゃって下さい」
とお願いをしました。
「そうか、おまえが家に帰る途中、私に会ったのはおまえに徳があったからだね。話してあげよう。おまえはずっと前に神様に助けられたことは覚えているね」
「はい、よく覚えています」
「おまえは神様に助けられて、今は裕福な生活を送っているが、おまえの妻はひどい人だね。神様にそういうふうに上がっているから、おまえたちの家庭を取ってこいということだよ」
「取ってこいということはどういう意味ですか」
「宝を取ってきなさいということは、火、火だよ。火をおこして焼き払ってくるように命令があってね。私はそういううことでおまえの家へ行くところなんだよ」
カナーはこれを聞いてびっくりしました。このおばあさんの言うことはほんとうだろうかと一瞬疑いましたが、前のおじいさんのこともあったし事実なんだと思いました。
「あゝそうだっだんですか。夫婦でありながら私はちっとも気づきませんでした。両親にも尽くしているものと思っていました」
「おまえは妻と離婚することができるか。できなければ今度はおまえの家はなくなるよ」
と言われて
「両親や家庭より上の宝はないです。私からお詫びしますのでどうかお許し下さい」
「そうか。ほんとうにおまえはその女と離縁する意志があるのだね」
「あります」
とカナーは急いで家へ帰りました。
妻はいつものようにちゃんと夕ご飯も作って
「お帰りなさい。どうぞお召し上がり下さい」
と膳を前におきました。これまで自分と仲良く暮していた妻がまさかこんな人だったとは、夢にも思わなかったことで、すごくがっかりしていました。
「どうなさったんですか。あなたは気分でも悪いのですか」
「どこも悪くはないよ。きょうは夕ご飯を食べる気にもなれない。ぜひおまえに言わなければはらないことがある」
「何ですか。そんなに怒って」
「おまえはここへ来てから、飯でもなんでもたくさんあるのに、お父さんやお母さんにはいつもひもじい思いをさせているというではないか。私は神様からのお言葉を聞いているのだが、ありのまま答えなさい」
と言いました。
「おっしゃるとおりです」
「そうか。辛いことだけどおまえとはきょう限りで緑を切る。この家を出て行ってくれ。そうしないとこの家は焼かれることになる。家を守るためには、もうそれ以外に考えられないから、非常に残念だけど実家へ帰ってくれ」
と言いました。
「そういうことであればしかた、ありません」
カナーは妻と離縁し、その後年を取った両親を大事に、さらに仕事に励んだということです。