読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1992年3月発行 広報よみたん / 6頁

【見出し】よみたんの民話読谷村民話集より再話 ムチジョーグ

 あるところに、たいそう餅の好きな親父がいました。このムチジョーグは、頑固者で、子や孫に、「私が生きているうちに、たらふく餅を食べさせてくれないか。亡くなってからは、食べることはできないし、供えもののおさがりはあなたがたが食べるんだからね」と言いました。
 そうしたら、子や孫たちは「そういうふうにもできるのかなあ」と思っていましたが、
「私の願いを聞いてくれ。私が言うとおりではないか。死んでしまってからは、あなたたちがどんなに餅を供えても、私は食べることはできないよ」
「じゃあ、ほんとうにそれでいいんですね。そう望むんでしたらそうしましょう」
と、子供たちは言いました。
 それからまた、ムチジョーグは「私が生きている間に、満足するぐらい餅を上げるんだったら、法事などというものはすべてやらなくてもいいよ」
と、約束をしました。
 子どもたちはさっそくいわれたとおりに毎日たくさんの餅を作って、ムチジョーグのところへ持って行きました。
 そして、そういうことが何年か続きましたが、その間、ムチジョーグは好きな餅をいっぱい食べさせてもらい、ついには寄る年には勝てず、心おきなく死んでしまいました。
 その後、子どもたちは、ムチジョーグに言われていたので、法事も全くやりませんでした。
 しかし、ムチジョーグはあの世に行ってしまいましたが、自分の思い通りにはできなくて、後生で重い罰を受けていました。
「おまえはこんなにしてもできるのか。スーコーというものは是非人間がやるべきものであるのに、それでは通用しないよ」
と、もう毎日毎日怒られたそうです。
 そこで、ムチジョーグはこれはどうしたらいいものか、たいへん悩みました。もう幽霊になって、このことを子どもたちに知らせて頼むしかないと考えました。そして、幽霊になって立つ場所も時間も決めて実行しましたが、この道には幽霊がいると噂が出て、そこを歩く人はいませんでした。
 ある日のこと、金持ちの家に仕えている下男が、大きな務めがあるにもかかわらず、ちょっと寝過ごしてしまいました。それで近道から行くにはそこに幽霊がいるというけれどどうしようか、また遠回りしたら遅れてしまう。下男は困ってしまいましたが、自分の義務を果たすためにはどうなってもいいと近道から行くことにしました。
 下男は脇目もふらず急ぎました。
「おい、おいちょっと待て」
さては噂のとおりだなと無視して行こうとしましたが、なおもしつこく追ってきました。
「私はきょうは急いでいるんだ」
「まず待て、もうこのように物頼みをするつもりだが、私が現われるとみんなすぐさま逃げて行き、頼もうと思っても頼むこともできない。おまえは度胸もあるしどうか私の思いを聞いてくれ」
「えっ!私は幽霊の頼みなど聞くことはできない」
と断わりましたが、それでもどうか聞いてくれと、お願いするものですから、
「どういうことか」
と、一応聞くことにしました。
 「実は私が生きている間はたいへん餅が好きで、子や孫たちとの約束でこういうふうにしたんだが、後生に行ったら思うようにできない。私は罰を受けているので、私が言ったことは間違っていたので、人並みに法事をしてくれるよう伝えてほしい」
「あゝそうですが。分かりました」
と言うと、幽霊は自分がどこそこの字のどの屋号であるかを教えました。
 下男はさっそくその家を訪ねました。応対した女中に
「あなたたちの祖先には、そういうふうな人がいらっしゃったそうだね。たいへん餅の好きなおじいさんがいらっしゃつたそうだね」
と話をしたら、その女中は、
「きちがいが来ているよ。朝っぱらからきちがいが来ているよ」
と、手をたたいて笑って「早く帰りなさい」と言いました。
 すると、下男は怒って、
「私はあなたたちの祖先に頼まれて来たんだが、バカな扱いをするとは何ということだ」
と、引き返してしまいました。
 それからすぐ、女主人が出て来て、
「あの人は何と言っていたか」
「あの人はここの祖先に餅の好きな人がいたというような話をしていましたよ」
「これはきっと深い意味がある。すぐ呼び返してきなさい」
と言いつけました。
 女中は急いで後を追いました。
「私が悪うございました。家まで来て下さい」
と呼び戻しました。
 下男は女主人に、
「あなたたちの祖先の人が、後生極楽を通ることもできずに、今は幽霊になってたいへん心配していらっしゃる。それで私はこの人に頼まれて、断わっても断わることができず、願いを持って来たんだが、このようにバカな扱いをされては合点がいかない。あなたは、話を聞きますか」
「女中のやったことはお許し下さい。是非お話をお聞かせ下さい」
 下男がすべてを話すと、
「お父さんとの約束でそういうふうになっています」
「そうであるのであればこれからでも遅くはありません。初七日から始めてちゃんと法事、法事はやらないとあなたたちの祖先は極楽を通ることができません。願いを聞いてやって下さい」
「これはもうやるべきことですからそうします」
 お互いに納得してから、下男は
「幽霊が、その証拠として、庭のクルチの木の下にお金を埋めてあるそうなので、それで法事をやってくれということであります」
 それから、家の人が木の下を掘ってみると、なるほどお金が出てきて、これで法事も終えることができ、ムチジョーグのおじいさんは、後生極楽を通ったということです。

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