読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1992年4月発行 広報よみたん / 6頁

【見出し】よみたんの民話読谷村民話集より再話 アカマター伝説【「ウーバーラ」】

 むかし、あるところに美しい娘がいました。その娘は、めったに外へ出ることもなく、毎日せっせと機を織っていました。
 いつの日からか、カッタンコットンと芭蕉布を織る娘の部屋から、楽しそうな話し声が聞こえるようになりました。「あなたはどこから来たのか」とか、娘は笑ったりしゃべったりしてとても楽しそうでした。
 隣の部屋にいたおかあさんは、誰も来る様でもないのに話し声がしたので、不思議に思って、
「おまえはいったい誰と話をしているのか」
と聞くと、
「毎晩ここへ、赤いティサージをかぶった美青年が来て、いろいろ話をして帰るのですよ。たいへんいい人で、楽しいですよ」
と言いました。
 そうしているうちに、娘は美青年と恋仲になり、やがて身重になりました。
 娘の体の変調に気づいたおかあさんは、どこの誰とも知らないのにこういうことになってしまってと嘆いていました。
 ある晩、戸の節穴から娘の部屋をそっとのぞいてみました。なんと、とぐろをまいたアカマターが首をもたげて、娘とさし向かいで座っているではありませんか。
 「これは大変なことだ」
もうおかあさんは腰をぬかさんばかりにびっくりしました。自分のかわいい娘の相手がアカマターだったとは。
 翌朝、おかあさんはさっそく娘を呼んで言いました。
「あなたのところに来るあの男は、ほんとうの人間と思っているのか」
「ほんとうの人間?それはどういうことですか」
「あの男は化物だよ。わたしはこの目で見てしまった。あなたはだまされているんだよ」
と、おかあさんが、「アカマターだよ」と教えても、「この人以上の美男子でいい人はいない」と、娘はなかなか聞こうとしませんでした。
 アカマターが、人間に化けて、家の隙間や節穴から入ってきたのでしょう。
 まずは、娘に、その男がアカマターだということを悟らせるために、確かめないといけないと考えました。
 「今夜、その男が来たら、芭蕉糸を針に通して、知られないように着物の裾に縫いつけておきなさい。わたしの言うことを聞いておけば後で分かるでしょう」
と言いました。
 むかしは、糸芭蕉をたくさん植えて、繊維をとり、これでバサージンと称する夏物の着物を作っていました。
 娘の機の側には、ウーバーラいっぱいの芭蕉の糸がおいてありました。
 男は、その夜もいつもと変わりなくやってきて、娘に会い、話を交わして帰りました。
 おかあさんは娘に、
「わたしが言ったとおりにやったか」
「はい、そのようにしました」
「それでは、その男がどこへ行くか分かるでしょう」
と言って、二人でこの芭蕉の糸を辿って行きました。
 すると、芭蕉の糸は、家の裏の道をずっと山手の方へと続き、洞窟のところへ行き、石垣の小さい穴へ入っていました。
 「さあ、見てごらん。その穴をのぞいてごらん。今では正体が現われるよ」
と、おかあさんは言いました。
 そこには二匹のアカマターが、ニョロニョロ、ペロペロ、ぶきみな姿態でうずを巻いていました。着物の裾に刺したはずの針が、アカマターの尾に刺さっているのがはっきりと見えました。
 娘は気を失ないそうになりましたが、おかあさんに「しっかりしなさい」と元気づけられていると、穴の中からモゾモゾと話し声が聞こえてきました。
「私は人間に子を■ませてきた」と、美男子に化けていたアカマターが言うと、他のアカマターが、「人間はおまえより物知りだよ。人間に子を■ませたからといって、あの人たちが海へ行き、浜辺で飛んだり跳ねたり、波とたわむれて遊べば海水で清められて、お腹の子はすっかり流されてしまうだろうよ」と、言いました。
 それを聞いたおかあさんと娘は安心して、急いで家へ帰りました。さっそく海へ行きました。白い砂をしっかり踏み、波に向かって砂を三回蹴って、潮水で足を洗いました。すると、娘はたちまちお腹が痛くなり、ジャラジャラジャラと七匹ものアカマターの子がおりてきました。沸騰している湯をアカマターの子にかけると全部死んでしまいました。
 娘の体はすっかり清められて、またもとの美しい身体になりました。
 浜へ下りた日が旧暦三月三日だったので、それからは娘たちの厄を払う意味で「浜下り」をして、浜辺で遊ぶことになったということです。

(注)
アカマター=琉球列島中央部の固有種で奄美大島、加計呂麻島、喜界島、徳之島、沖永良部、与論島、久米島、渡名喜島、沖縄本島とその属島(浜比嘉島、伊計島、宮城島)に広く分布.ている無毒蛇で体長一三〇㎝内外である。人家周辺から耕作で及び山地にかけて、広い範囲に生息している普通種で、主として夜間活動する。
ウーバーラ=糸芭蕉の繊維を入れる籠。「ウー」は芭蕉の繊維、「バーラ」は籠のこと、竹で編まれたもので、直径三五センチ、高さ二〇センチくらいの籠。
浜下り=旧暦三月三日は、読谷村でもハマウリー(浜下り)とか、サングワチャー(三月祭)と称して、現在でも女児のためにウジュー(お重)を作ったり、あるいは潮干狩りをして遊ぶ風習がある。

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