保育の窓二十二
「ことばの宝箱」
今年入園してきた二歳児のT君…生まれて初めて両親から離れ、園での生活を経験することになった。最初の頃は園の門をくぐるや否や必死の抵抗で登園を嫌がり、周囲を困らせてしまった。新しい環境に慣れるまでには個人差はあれ、誰でも不安や緊張を抱く。そんな子供たちの心情を解きほぐすのは、周りの大人のやさしい言葉がけと、ありのままの姿を受け入れる気持ちが大事である。「ずっと泣いててもいいけど、T君の泣き声は大きいから先生はお耳が痛いな」と担任が耳を押さえ、困った顔をしながら言うと、これまでしゃっくりを上げて泣いていたT君、「…もう泣かない」と保育士の耳元で小さな声でささやいた。けなげなT君の姿に思わず感動した保育士である。
毎日交わされる子供同士の会話を聞いていると、時々ほのぼのとした内容に出会う時がある。ある日の三歳児クラスでのこと。ちょっとやんちゃなY君にはお気に入りの女の子がいる。いつも一緒に遊び、食事の時も隣りに座り、絵本を持ってきては隣に依り添って仲良く見たり、その姿は微笑ましい限り。その時の会話をご紹介しましょう。
「こんど、お家にあそびにいっていい?」とY君が女の子に尋ねる。「だいじょうぶだよ。ちゃんとピンポンっておして、おじゃましますっていったらいいんだよ」と、女の子に必死?に頼んでいる。すると隣にいたK君が大きな声で「ハァ~ふたりだけでなぁ~オレは?」と二人の間に割り込んで来た。しばし沈黙。会話は三歳児の世界、いつの間にか話題は脱線し、その先の会話を楽しみにしていた保育士の期待は空しく消えてしまった。
他にも楽しい会話は色々、「○○ちゃんの靴かわいい~先生も欲しいな~」というと「せまくなったらせんせいにあげるさぁ~ね」とやさしい返事が返ってきた。
毎日交わされる言葉の中にハッとさせられたり、何気なくつぶやいた言葉に「なるほど」とうなづくものがあったり、子供たちの言葉には大人の心を浄化させてくれる「力」があるようだ。
心の中にいっぱい「ことば」をため込んでいた乳幼児たちが、やがて年齢と共に言葉が溢れ出してくると、さらに世界がどんどん広がっていく。
そんな園児たちの遊びの世界にふと足を踏み入れ、屈託のない一人ひとりの「ことば」に素直に耳を傾け、幼児の世界を覗いてみたい。「ことばの宝箱」を見つけに。
喜名保育園 石嶺元子