読谷村史編集室 読谷村の出来事を調べる、読谷村広報データベース

1992年7月発行 広報よみたん / 6頁

【見出し】よみたんの民話読谷村民話集より再話 塩吹き臼 【写真:1】

 雨が降って、雨水は海へ落ちていくのに、いつまでたっても海水はなぜ辛いのでしょうか。
 あるところに、男の兄弟が二人いました。兄さんは大変金持ちで、弟は貧乏でした。
 正月も間近かにせまったある日、兄さんは豚一頭をつぶしました。弟のところはもう何にもないので、兄さんのところへ行って、
「どうか兄さん、私にも肉一、二斤分けて下さい」
と、お願いをしました。
 すると、兄さんは、
「おまえのような貧乏者が肉を喰うというのか、できん」
「やがて正月がくるのに、食べるものもありません。一斤でもいいですから、どうかお願いします」「それほど言うのなら、とっととこれを持って行け!」
と、一斤の肉を投げつけました。
 弟は、これでもう正月ができると、喜んで豚肉を大事にかかえて家へ向かいました。
 弟が帰ったすぐ後に、今度は、みすぼらしいみなりをしたおじいさんがやってきました。
 「あのう、私はこのとおりの者で、年を越すこともできず、とても困っているのですが、あなたはこんなに大きな豚をつぶしておられる。私にほんのひとかけらでも分けて下さらんか」
「何を言う。おまえのようなギンジャー(こじき)へ分けてあげる肉などはない。さっさと帰れ!」
と、追い払ってしまいました。
 みすぼらしいおじいさんは、
「そうですが」と、肩を落として、今しがた帰っていった弟の後を追いました。
そして、「お一い、ちょっと待ってくれ一」と呼び止めて、
「おまえの持っているものは何か」
と、聞きました。
 「私は貧乏で、家もないし、正月だというのに食べるものもないので、兄さんのところへ行って豚肉を分けてもらいました」
と、言うと、おじいさんも
「私も貧乏者でね、家も何にもなくて、途方にくれているんだよ」
「それは大変ですね。私は洞窟に住まっているんだが、それでよろしければ一緒に正月しませんか」
 こうして、弟とみすぼらしいおじいさんは、兄さんからもらった肉で正月を迎えることにしました。 そして、お肉を炊いて食べた後、
おじいさんは、
「それじゃごちそうにもなったし、私がいい物をあげよう。この石臼をまわすと欲しいものがなんでも出てくる。塩出ろエンヤラゴロゴロと三回まわすと塩が出る。五回まわすとご馳走がでるよ。止めるときは、これでよろしいエンヤラゴロゴロと言いなさい」
「ほんとうですか。こんなふしぎな臼を私に下さるのですか」
「これがあれば、兄さんに負けないぐらいの生活ができる。おまえはとても親切な青年だからいつかは成功するでしょう」
「ありがとうございます」
「じゃこれで私は失礼する」
そう言っておじいさんは出て行きました。
 そのみすぼらしいおじいさんは神様だったんでしょう。
 弟はさっそく言われたとおりにやってみました。
 「お肉出ろエンヤラゴロゴロ」と言うと、お肉が出てきて、「塩出ろエンヤラゴロゴロ」と言うと、
塩が出てきました。
 「ほんとうにふしぎな臼だ」と弟はこの臼を大事にしまっていました。
 それから、欲の深い兄さんが、このことを聞いて、飛んでやってきました。
「なになに、おまえはふしぎな臼を持っているんだと。どこからどのように探してきたのか」
と、聞きました。
 弟は、
「みすぼらしいおじいさんに会って、泊めてあげたらそのおじいさんが臼を下さったんだよ」
「それに、おまえどうして、こんなに裕福になっているのか」
と、しつこく聞くので、
「この臼は欲しい物は何でも出るよ。お肉や塩やらね。塩を出してこれを売って生活しているんだよ」
と答えました。
 「これはいいことを聞いたぞ」
と、兄さんは、この臼をいっこくも早くまわしてみたくなって、
「すぐ返してあげるから、ちょっとだけ私にその臼を借してくれないか」
と、今でも盗まんばかりに目をギョロギョロさせて言いました。誠実な弟は、兄さんだからと貸してあげました。
 すると、兄さんは、その臼を自分の物にしてしまおうと、舟を盗んで、向こうの島に渡ることを考えました。
 臼を舟に乗せて、急いで岸を離れると、「しめしめうまくいったぞ」と喜んでいました。
「どれ、塩でも、ひとまずなめてみようか」
と、臼に向かって、
「塩出なさいエンヤラゴロゴロ」
と言うと、塩が出てきました。
「うんなかなかうまいな」
と、二回、三回なめていましたが塩はどんどん出てきます。もう、これでいいと思ったのですが、兄さんは止めることを知りません。
さあたいへん。臼から塩が吹き出して、舟いっぱいになり、兄さんも塩の中に埋まってしまいました。
 ここは海のど真中、とうとう舟もろとも、この臼も兄さんも海の中へ沈んでしまいました。
 きっと、今でもこの臼は、海の底でまわりぱなしで塩がどんどん吹き出ているのでしょう。だから潮はしょっぱいのですね。

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