これは笑い話なんだけど、むかしむかしの侍と平民の言葉使いの話だよ。
ある農家の娘が、首里の御殿に下女奉公として働きに行くことになった。偉いところへ奉公に行く娘におかあさんは心配して言った。
「首里に行ったらね、言葉使いには気をつけるんだよ。いつも相手を敬って、言葉のはじめに『御』をつけるんだよ」
「はい、分かりました。そのようにします」
娘はおかあさんの教えをしっかりと胸の中におさめて、「言葉のはじめには『御』」と、いよいよ首里へ向かった。
そして、首里の御殿でおかあさんの教えを守り、いっしょうけんめい働いた。
六月の雨あがりのある日、庭で蛙がガーク、ガーク鳴くのが聞こえた。娘は、
「御旦那様の御下水で御蛙が御ガーク、御ガークと鳴いています」
「なに!」
「はい、御蛙が御ガーク、御ガークと鳴いています」
「もう、おまえは、そんな下水にも御下水という。御蛙が御ガーク、御ガーク鳴くという。おまえはこの『御』は今からは絶対に使ってはいけないよ」と言われた。
そして、こんどは食事のときである。娘が、
「旦那のあごに飯粒がついてます」
それを聞いた旦那様は目をしろくろさせて、何がどうなっているのか分からなくなった。
旦那様は『御』は使うべきとこに使うものであって、使わなくてもよい『御』は全部取ってすてなさいね」と教えたつもりだったのに、すべて取ってしまうとは何たることだと怒ったそうだ。
ご紹介
「よみたんの民話(再話)」は、知花春美さん(読みtんそん歴史民俗資料館に勤務)のご協力の下に、広報よみたんに掲載しています。
今後も引き続き掲載していきたいと思いますので、村民の皆様方の温かいご支援をお願い致します。